亡父は、自宅の土地建物と若干の預貯金のみを残して亡くなりました。遺言はありません。
相続人である私と兄の間では、法定相続分に従って遺産を分けることや、遺産はすべて兄が相続し、私は遺産の半分に相当する額を兄からお金でもらうことで意見は一致しているのですが、兄は、できる限り私に支払う金額を少なくしたいらしく、土地建物の評価額をかなり低い額であると主張しています。
土地建物の評価額は、どのようにして決めたら良いのでしょうか?
ご質問のケースのように、相続人が遺産そのものを取得するのではなく、法律で決まった相続分を超えて遺産を取得した他の相続人からお金を受け取って調整するような遺産分割のやり方を、「代償分割」といいます。
代償分割をする場合には、遺産がいくらなのかを金銭的に見積もる作業は不可欠であり、この作業を「遺産の評価」といいます。
ご質問は不動産の評価額をどのように決めたら良いか、ということです。
まず、不動産に限らず、物の値段というのは時の経過とともに上がったり下がったりしますのでいつの時点の値段を評価額にしたら良いか、という問題がありますが代償分割の際の代償金を決めるような場合には、分割時点での価格を評価額にすることとされています。
ですから、お父様が亡くなってから現在までにかなり時間が経ってしまっており、その間に土地建物の値段が変わってしまっているとしても、代償金の額を考える際には分割をしようとする現在の土地建物の値段を基準とするのです。
次にどのような額を評価額とすればよいかについては、「取引価格」、言い換えれば実際に売却した場合にいくらで売れるか、という観点からはじき出される金額を評価額とするのが原則です。
不動産の場合、公的機関が算定している価格として、「固定資産税評価額」、「路線価」、「公示地価」などがありますが、これらの価格は「取引価格」との間に金額の差があることも多く「取引価格」を算定する際の参考にはなるものですが、「取引価格」そのものではありません。「取引価格」がいくらなのかについては、最終的には不動産鑑定士等による鑑定によって定めていくほかありませんが、これには費用も時間もかかるため、一般的には、双方が信頼できる不動産業者による査定書を持ち寄って突き合わせ、双方が納得できる金額で評価額を合意することが多く行われています。
もっとも、遺産の評価額をいくらにするのかについては、双方が合意で決めて良いことですので合意ができるのであれば、客観的な「取引価格」を基準に遺産分割することを強制されるものではありません。
たとえば、相続人が皆取得したくない不動産をやむを得ず1人の相続人が引き取るというような場合、引き取る人の負担などを考えて、あえて「取引価格」より低額の「固定資産税評価額」を基準にすることを合意して代償金の額を決めることも自由です。
ただし、このような合意ができず裁判所が遺産の評価額を決めることになった場合には、「取引価格」での評価が原則になってくるということになります。