要介護の状態になった高齢の父の面倒を私がみていますが、他のきょうだいは父を見舞いに来ることもほとんどない状態です。
父は常々、「財産は面倒をみてくれているお前が全部もらうのが当然だ」と言ってくれていますが、遺言書を作ってもらった方が良いのでしょうか?
お父様に遺言書を作ってもらうことを強くお勧めします。
まず、お父様が常々「財産は、面倒をみてくれているお前が全部もらうのが当然だ」と言っておられるということですが、これ自体は法律上の遺言には当たりません。
遺言は病気などで死期が迫っていて書面を作成できないなど特別の場合を除き、法律で定められた一定の方式で書面を作成しなければ、遺言としての効力が認められないのです。お父様の言葉を録音していても遺言としては認められません。
また、遺言がない場合、遺産は法定相続人が法定相続分に応じて分割するのが原則となっていますから、ほかのごきょうだいがお父様の遺志をくんであなたが全遺産を取得することに同意してくれない限り、遺産は法定相続分に従ってごきょうだいで分割することになります。
この点、民法では「寄与分」という制度が設けられており、「共同相続人中に、・・・被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者」がいるときには、その相続人が、寄与に相当する分、遺産を多く取得できるという定め(民法904条の2第1項)がありますので、要介護の状態になった高齢のお父様の面倒をみておられたのであれば、遺言がなくとも寄与分を考慮することにより、法定相続分より多い割合で遺産を取得できる可能性はあります。
しかし、実際には家庭裁判所で寄与分を認めてもらうことは、決して簡単なことではありません。
上記の条文にも書いてあるとおり、寄与分として認められるためには療養看護等がお父様の「財産の維持又は増加」に寄与していると言えなければなりませんし、それが「特別の寄与」といえなければならず、その主張立証には困難が伴うことも珍しくありません。ですから寄与分の制度があるからといって安心して良いわけではないのです。
お父様のお気持ちを、お父様の死後にきちんと実現して差し上げるためには、遺言書を作成しておくのが最も確実な方法であるといえます。そしてお父様が既に高齢であるということなどを考えると、公正証書によって遺言を作成し、後で「この遺言書を作ったときには父はもう理解力が全くなかったから遺言は無効だ」などと言われにくくしておくのがお勧めです(遺言書を作成しても、遺留分という問題があることについては、Q2をご覧ください)。